大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2933号 判決

控訴人

大蔵開発株式会社

右代表者

堀賢蔵

右訴訟代理人

小山勲

被控訴人

株式会社三協ハウス

右代表者

河村容男

右訴訟代理人

山下俊六

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一原判決理由一ないし三については、次のとおり附加、訂正、削除するほか、これと同一であるからこれをここに引用する。

二原判決〈中略〉一〇枚目裏四行目「三」とあるのを削除し、同九行目「と認める」から同一一枚目表一〇行目「いわなければならない。」までを次のとおり訂正する。

「であり、控訴人の石川に対する前記本件土地建物の所有権移転登記及びその引渡しは、控訴人の主張するように、控訴人と被控訴人間の本件売買契約における売主としての義務の履行としてなされたものではないと認めるのが相当である。何となれば、右売買契約においては、売主である控訴人は、買主である被控訴人またはその指定する第三者に本件土地建物の所有権移転登記とその引渡しをなすべき債務を負担しているから、控訴人が被控訴人による本件土地建物の転売先である石川に上記のような登記と引渡しを行つたことは、一見右の債務を先履行したにすぎないような観を呈するけれども、不動産売買における目的物の所有権移転登記とその引渡しの義務は買主の売買代金支払義務と相関関係があり、売主は通常買主から売買代金の支払を受けるまで右登記等の義務の履行を拒むことにより代金の支払を確保する利益を有しているから、本件のように、被控訴人が控訴人から本件土地建物を買い受け、転売利益をえてこれを石川に転売したような場合においては、控訴人から被控訴人に所有権移転登記と引渡しをするのは格別として、右石川へのそれを被控訴人の意思を無視して行うことは、被控訴人の上記利益を没却することとなり、控訴人、被控訴人間の売買契約において定められた売主たる控訴人の債務の本旨に従つた履行ということができないのみならず、更にこれを石川との関係についてみると、もし控訴人から石川への本件土地建物の所有権移転登記と引渡しとが、一方において控訴人、被控訴人間の売買契約上の控訴人の義務の履行として、他方において被控訴人石川間の転売契約における被控訴人の義務を控訴人が代つて履行するものとしてなされるものであるとすれば、石川は右被控訴人との売買契約につき売主から先給付を受ける利益を得る反面所定の売買代金についてはその全額の支払義務を免れることができない筋合であるところ、石川が控訴人の前記申立を承諾したのは、単に右先給付が受けられるからではなく、被控訴人との契約価格を下廻る金額で本件土地建物を取得できることとなる旨の控訴人の勧説に基づくものであること前記のとおりであり、この間の事情はもとより控訴人の十分承知していたところであるから、これらの点を考慮するときは、上記一連の過程において控訴人と石川との間に成立した合意は、これについての控訴人自身の主観的な認識ないしは解釈がどのようなものであれ、客観的には、上記先行する二個の売買契約を前提として各その義務の履行につき両者で特段の取決めをしたというものではなく、控訴人と石川との間における本件土地建物についての新たな直接の売買契約の締結があつたとみるのが合理的であるといわざるをえないのである。

三本件売買の解除による原状回復及び損害賠償について

1  ところで、右に認定したように、控訴人、被控訴人間において本件土地建物の売買契約が締結され、次いで被控訴人と石川との間でその転売契約が締結された後に、被控訴人に無断で控訴人と石川との間で直接に本件土地建物の売買契約が締結され、その義務の履行として控訴人から石川に右土地建物の所有権移転登記と引渡しが行われた場合、これによつて先の二個の売買契約にいかなる効果が生ずるかを考えるのに、右控訴人から石川への所有権移転登記と引渡しが控訴人と被控訴人間の売買契約上の義務の履行としてなされたものでなく、また債務の本旨に従つた履行とも目しえないことは前述のとおりであるから、被控訴人は依然として控訴人に対し本件土地建物の被控訴人自身または転売先である石川に対する所有権移転登記と引渡しを求める権利を有するところ、控訴人は右土地建物を直接石川に売却してその所有権移転登記と引渡しを完了したのであるから、社会観念上はこれにより控訴人の被控訴人に対する上記義務の本旨に従つた履行は控訴人の責に帰すべき事由により不能となるにいたつたものと解するのが相当であり、したがつて控訴人は被控訴人に対し、これによる責任を負うものといわなければならない。また他方石川も、右控訴人の行為に加功し、被控訴人が石川との契約に基づきその義務を履行することを結局において不可能ならしめたものであるから、反対給付たる売買代金の支払を拒むことができないし、また被控訴人がこれにより特別の損害を受けたときは、これが賠償の責任をも免れないものというべきである。

2  被控訴人が昭和五〇年六月七日控訴人に対し上記履行不能を理由として本件売買契約を解除したことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すると、被控訴人と控訴人間の本件売買契約の約定として、売主の義務不履行により売買が解除された場合には、売主は買主に対し、違約金として、手附金と同額にあたる金一〇〇万円を支払う旨定めたことが認められ、右認定を左右する証拠はない。そうすると、本件売買は結局売主である控訴人の義務不履行により前記日に解除されたものであるから、控訴人は被控訴人に対し、右約定に基づき違約金一〇〇万円の支払義務があるものといわなければならない。〈後略〉

(中村治朗 石川義夫 高木積夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例